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横浜地方裁判所 昭和45年(行ウ)10号 判決

神奈川県横浜市鶴見区平安町一丁目四二番一七号

原告

斉藤敏夫

右訴訟代理人弁護士

篠原義仁

杉井厳一

根本孔衛

同県同市同区鶴見町一〇七一番地

被告

鶴見税務署長

高橋和夫

右指定代理人

河村吉晃

小林康行

篠田学

勝野功

藤田忠志

中川幸雄

佐藤敏行

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和四十年ないし同四二年分の所得税について被告が昭和四三年六月二九日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件各処分の経緯

原告は、建設業を営むいわゆる白色申告者であるが、その昭和四〇年ないし同四二年分の各所得税について被告がした更正(以下「本件各更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件各決定」という。また両者を一括して以下「本件各処分」という。)をはじめとする課税の経緯は、次表(一)ないし(三)のとおりである。

(一) 昭和四〇年分

〈省略〉

(二) 昭和四一年分

〈省略〉

(三) 昭和四二年分

〈省略〉

2  本件各処分の違法事由

しかし、係争年分の原告の総所得金額は、右表の各申告額のとおりであり、本件各更正は、不当な推計に基づき所得を過大に認定した違法があり、したがって、それに附帯してされた本件各決定も違法である。よって、原告は、被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、2は争う。

三  被告の主張

本件各処分は原告の所得を推計した上でなしたものであるが、以下1のとおり原告の所得についてはこれを推計せざるを得なかったものである。また、本件各処分における原告の総所得金額は、いずれも以下の2のとおり本件各係争年分の総所得金額の範囲内である。したがって、本件各処分に違法はない。

1  推計の必要性

(一) 原告の提出に係る昭和四〇年分及び同四一年分の確定申告書は、いずれも事業所得及び給与所得については、その総額のみが記載され、それらの算定の根拠となる収入金額、必要経費等の記入が存しないうえ、被告が収集した建築先の資料せん等の内容からみても、申告にかかる所得金額が適正であるかどうかを確かめる必要があった。

さらに、右調査を実施中の昭和四三年三月一三日に原告から同四二年分の確定申告書が提出されたが、右申告書は、同四〇年分及び同四一年分の各申告書と同様に記載が不十分であったため、右申告にかかる所得金額が適正なものであるか否かを確認する必要が生じた。

(二) そこで、被告は、調査中の同四〇年分及び同四一年分に併せて、同四二年分についても調査を実施したものである。調査の内容であるが、被告の係官は、昭和四二年一一月二一日から同四三年二月三日までの間に一五回にわたり原告方に臨場し、原告の事業所得金額の算定の基礎となる売上金額、仕入金額及び必要経費について明らかにし得る帳簿、書類の提出を求めたが、原告は、現金出納帳、仕入帳、経費帳及び原始記録の提示すら行なわず、また自らが申告した事業所得金額について、その算出根拠の合理的説明をしなかった。また原告の妻は、テープレコーダー等を使用し、或いは原告の関係する鶴見建設労働組合の事務局長岩井の応援を求めて、係官の調査を困難ならしめた。このように原告の昭和四〇年分ないし同四二年分の確定申告が収支実額に基づく正確な所得金額であるか否かの調査・確認が不可能な状態にあった上、原告の係争年分の確定申告に係る事業所得金額は同業者のそれに比して著しく過少であったため、右申告に係る事業所得金額が営業の実態を反映しているものとは到底認め難く、相当額の逋脱があるものと推定された。

そこで被告は、やむを得ず、原告の事業所得金額を推計により算出し、本件各処分を行った。

2  所得金額等の計算根拠

原告の昭和四〇年分ないし同四二年分の各所得税の総所得金額は次表記載のとおりであり、その計算根拠は(一)ないし(六)のとおりである。

〈省略〉

(一) 事業所得に係る総収入金額

原告の事業所得に係る総収入金額は、前記表のとおり、

昭和四〇年分 一七九八万七二六五円

昭和四一年分 一四八八万八九六五円

昭和四二年分 一七一二万七〇〇二円

である。このうち、右の昭和四〇年分及び同四一年分は、本訴における原告の主張額である。次に、昭和四二年分につき、原告は右一七一二万七〇〇二円から値引き分一万二〇〇〇円を減額した一七一一万五〇〇二円を主張しているが、売上原価及び一般経費を推計する必要があるので、収入金額は値引前のものを採用し、値引額は算出所得金額の段階で考慮する。

(二) 事業所得に係る売上原価及び一般経費

原告の事業所得に係る売上原価及び一般経費は、

2冒頭の表のとおり、

昭和四〇年分 一五八二万八七九三円

昭和四一年分 一三一四万六九五六円

昭和四二年分 一五一一万八〇〇四円

であるが、この売上原価及び一般経費については、次のとおり推計(以下「本件推計」ということがある。)により計算した。

すなわち、原告の住所地を所轄する鶴見税務署管内において原告と同じく建築(木造)請負業を営む者で、昭和四〇年ないし同四二年の各年分の所得税についていずれも青色申告書を提出しており、かつ、右各年分の総収入金額がいずれも五〇〇万円以上五〇〇〇万円未満の八名の納税者(以下「本件同業者」という。)の昭和四〇年分ないし同四二年分の青色申告決算書によって、別表一記載のとおり右各年分ごとに右各人の総収入金額に対する売上原価及び一般経費の各割合を求め、それらの平均値(昭和四〇年分は八八・〇〇パーセント、同四一年分は八八・三〇パーセント、同四二年分は八八・二七パーセント)を前記(一)記載の原告の各総収入金額に乗じて、原告の右年分の売上原価及び一般経費を算出した。

なお、本件同業者の資格、経験年数及びその従業員数は次表のとおりである。

〈省略〉

但し、( )内は、本人及び家族従業者(本人の労務に直接たずさわらない者を除く)。

(三) 事業所得に係る算出所得金額

原告の事業所得に係る算出所得金額は、2冒頭の表のとおり、

昭和四〇年分 二一五万八四七二円

昭和四一年分 一七四万二〇〇九円

昭和四二年分 一九九万六九九八円

である。これは、各年分ごとに、前記(一)記載の総収入金額から、右(二)記載の売上原価及び一般経費の額を控除して算出したものである。但し、昭和四二年分については、値引き分一万二〇〇〇円を更に控除した後の数値である。

(四) 事業所得に係る特別経費

(1) 原告の事業所得に係る特別経費中の支払利息は、

2冒頭の表のとおり、

昭和四〇年分 五〇八二円

昭和四一年分 四万六五五二円

昭和四二年分 一八四八円

である。

(2) 同じく減価償却費(建物)は、2冒頭の表のとおり、

昭和四〇年分 二万一四五七円

昭和四一年分 二万六五六八円

昭和四二年分 二万六五六八円

である。ただし、いずれも、原告所有建物(二棟)のうち、事業の用に供している部分(作業場兼住宅一〇〇パーセント、住宅五〇パーセント)について算出した。

(五) 事業所得金額

原告の事業所得金額は、2冒頭の表のとおり、

昭和四〇年分 二一三万一九三三円

昭和四一年分 一六六万八八八九円

昭和四二年分 一九六万八五八二円

である。これは、各年分ごとに、前記(三)記載の各算出所得金額から、右(四)記載の特別経費を控除して算出したものである。

(六) 不動産所得金額

昭和四二年分についてだけは、事業所得のほかに不動産所得があり、その金額は2冒頭の表のとおり一四万二七四〇円である。これは、原告の申告額であり、内訳は次のとおりである。

総収入金額 一八万円

必要経費 三万七二六〇円

四  被告の主張に対する認否

1  「被告の主張」欄の冒頭の主張は争う。

2(一)  同1(一)の事実のうち、原告提出の係争年分の確定申告書の事業所得欄及び給与所得欄には、いずれもその総額のみが記載されていたことは認め、その余は知らない。

(二)  同1(二)の事実のうち、被告の係官が昭和四二年一一月二一日から同四三年二月三日の間に一五回にわたり原告方へ臨場したこと、本件各処分が原告の事業所得金額を推計してなされたものであることは認め、何年分についての調査であるかは不知、その余は否認ないし争う。

3(一)  同2冒頭の主張は争う。

(二)  同2(一)の各事実のうち昭和四〇年分及び同四一年分は認める。昭和四二年分については、訴外浜野にかかる請負工事代金についての値引き分一万二〇〇〇円を差し引いた一七一一万五〇〇二円が総収入金額である。

(三)  同2(二)のうち、本件同業者に関する表及び別表一記載の事実は不知、その余は争う。

(四)  同2(三)は争う。

(五)  同2(四)の各事実は認める。ただし、昭和四一年分支払利息については、後記「原告の反論」欄4記載のとおり、更に六万八五八二円の支払利息があり、一一万五一三四円となる。

(六)  同2(五)は争う。

(七)  同2(六)の各事実は認める。

五  原告の反論

1  調査非協力の正当性

被告は、原告に対する調査を開始する以前に反面調査を完了させていながら、原告が鶴見建設労働組合に参加しているが故に、いやがらせのために調査に及んだ。また被告の係官は、原告に対する調査の際に、調査の目的、理由につき何ら具体的に説明することなく権力的な言動に終始した。さらに、被告の係官は、原告の仕事の都合、次男の健康、妻の妊娠、原告の病気等原告側の事情を一切考慮することなく、一方的かついやがらせ的に連日の臨場期日を指定して実行した。かかる調査は、質問検査権或いは税務権力の濫用であり、原告がそれに協力できないのは、やむをえないことであった。

したがって、原告が被告の調査に協力しなかったことをもって、推計課税の必要性が満たされたとすることはできない。

2  推計の基礎資料の不完全性

被告は、本件推計の基礎に用いた本件同業者の氏名、仕事内容等を特定して主張していないから、本件推計に対する原告の認否、反論は不可能である。よって、「被告の主張」2(二)記載の主張は、不適法である。

3  実額反証

原告の係争年分の事業所得に係る売上原価及び一般経費は、左記のとおり実額又は合理的推計に基づいて把握し得るものであり、推計による本件各処分は違法である。

(一) 昭和四〇年分 一七二三万八六三八円

内訳は次のとおり。

(1) 建築確認費用 一五万三五〇〇円

(2) 材木費 四九八万〇六六四円

(3) 建築金物費 二三万六四七二円

(4) 基礎工事費 五九万七〇〇〇円

(5) 建材費 二五万八四二九円

(6) 石積、ブロック諸費 一五万二六五〇円

(7) 瓦葺工事費 九万〇九五〇円

(8) 左官工事費 一三一万二三三〇円

(9) 板金工事費 一〇五万〇八〇八円

この板金工事費は、次のようにして算出したものである。すなわち、原告が昭和四〇年中に行なった建設工事のうち、工事先宇野大久弥、清水功、三倉博、玉木キク及び工藤仙一郎に係る板金工事代については、領収書を紛失したため、実額の把握ができない。そこで別表二記載のとおり、右各工事先に係る板金工事見積額から、原告のマージン分として一割を減じた額を、右各工事先に係る板金工事費としたものであり、合理的である。

(10) 畳工事費 二三万六五〇〇円

(11) ガラス工事費 三八万八五二五円

(12) 塗装工事費 五一万六五一〇円

(13) 鉄骨、シャッター工事費 二八万一七〇〇円

(14) 水道工事費 一一六万一〇三六円

(15) 建具費 一六一万二五一五円

(16) 電気工事費 六六万五一〇〇円

(17) タイル工事費 八七万一九〇〇円

(18) 諸経費 六四万八五四九円

内訳は次のとおり。

ア 燃料費 一九万三八一六円

実際の燃料費総額二四万二二七〇円から、私用分に相当する二割を減じた額である。

イ 電気代 一万〇五三三円

電気代については、昭和四〇年一月及び三月ないし五月分の四か月分を除いて、領収書を紛失したため、実額の把握ができない。そこで、右四か月分の合計額である三五一一円に、四分の一二を乗じて、一年分の電気代として一万〇五三三円を推計したものである。

ウ 電話代 三万〇九七九円

電話代についても、二か月分を除いて領収書が紛失したため、右イ同様、二か月分の合計額六四五四円に二分の一二を乗じ、一年分として三万八七二四円を推計し、更に右ア同様、右の金額から私用分に相当する二割を減じたものである。

エ その他 四一万三二二一円

(19) 大工工賃 二〇二万三五〇〇円

詳細は別表三記載のとおり。ただし、日当額は、領収書が存しなかったので、当時の日当相場に従った。

(二) 昭和四一年分 一三八〇万六四九九円

内訳は次のとおり。

(1) 建築確認費用 二一万九五〇〇円

(2) 材木費 四〇三万五〇〇〇円

(3) 建築金物費 二〇万四四六二円

(4) 基礎工事費 四二万一九〇〇円

(5) 建材費 九万六六〇〇円

(6) 石積、ブロック諸費 三万〇八〇〇円

(7) 瓦葺工事費 二八万五七〇〇円

(8) 左官工事費 六八万四九八三円

この左官工事費は次のようにして算出したものである。すなわち、まず、原告が昭和四一年中に行なった建設工事のうち、工事先古川節夫、中岡保及び武田金治に係る左官工事費については、領収書を紛失したため、実額の把握ができない。そこで別表四記載のとおり、右年中に左官工事を施行した工事先のうち、見積額及び現実の支払金額が把握できるもの七件に基づき、それらの左官工事の見積総額及び現実の支払総額から利益率三八パーセント(ただし、一パーセント未満四捨五入)を算出し、左官工事費の不明な前記工事先古川節夫、中岡保及び武田金治に係る左官工事見積額から右利益率三八パーセント分を減じて、それらの左官工事費を推計した。そして、これに判明している工事先に係る左官工事費を加えたものである。

(9) 板金工事費 七五万九四一八円

この板金工事費は次のようにして算出したものである。すなわち、まず、工事先古川節夫に係る板金工事費については、領収書を紛失したため、実額の把握ができない。そこで、右(8)同様、別表五記載のとおり、他の判明している工事先の板金工事見積総額(ただし、中岡保分については、板金工事を値引きの対象としたため、右工事費を見積請求しなかった。)及び現実の支払総額から利益率である一一パーセント(ただし、一パーセント未満四捨五入)を算出し、右不明の工事先古川節夫に係る板金工事見積額から右利益率一一パーセント分を減じて、その板金工事費を推計した。そして、これに判明している板金工事費を加えたものである。

(10) 畳工事費 一一万九四〇〇円

(11) ガラス工事費 六六万〇二七五円

(12) 塗装工事費 三四万四一七五円

(13) 鉄骨、シャッター工事費 二三万五八六〇円

(14) 水道工事費 五四万九一六五円

(15) 建具費 八二万一〇九二円

(16) 電気工事費 六二万九〇三一円

(17) タイル工事費 五一万五七六六円

(18) 熔接工事費 八〇三〇円

(19) 鋼材費 二一万六八四〇円

(20) 諸経費 八八万五六一九円

内訳は次のとおり。

ア 燃料費 二四万〇六〇六円

前記(一)(18)ア同様、実際の燃料費総額から私用分に相当する二割を減じた額である。

イ 電気代 一万〇三〇五円

領収書が八か月分しか存しなかったため、前記(一)(18)イと同様に一年分を推計して得られた金額である。

ウ 電話代 三万六〇一〇円

領収書が八か月分しか存しなかったため、前記(一)(18)ウ同様、右八か月分の総額に八分の一二を乗じて一年分を推計し、更に右推計額から私用分に相当する二割を減じたものである。

エ その他 五九万八六九八円

(21) 大工工賃 一六八万二九〇〇円

詳細は別表六記載のとおり。日当額については、前記(一)(19)と同旨。

(22) 鉄工、配管工工賃 二二万円

詳細は別表七記載のとおり。日当額については、前記(一)(19)と同旨。

(23) 解体工事人夫賃 一五万九〇〇〇円

詳細は別表八記載のとおり。日当額については、前記(一)(19)と同旨。

(24) 減価償却費(建物以外) 二万〇九八三円

内訳は、次のとおり。

水準器 一万〇一二五円

複写器 四七二五円

計算器 六一三三円

(三) 昭和四二年分 一六五二万八六六二円

内訳は次のとおり。

(1) 建築確認費用 六万三一〇〇円

(2) 材木費 四五一万二〇六四円

(3) 建築金物費 二七万一六三七円

(4) 基礎工事費 七六万〇九〇四円

基礎工事費については、原告が昭和四二年中に行なった建設工事のうち、工事先斉藤東分を除いて領収書を紛失してしまったため、右の工事先について実額の把握ができない。そして、右斉藤分の基礎工事における原価率が八六パーセント(現実の支払金額一二万九六四〇円÷見積額一四万九九〇〇円。一パーセント未満四捨五入。)であるところ、右工事を担当したとび職岩沢某は、その余の工事先を担当したとび職榎本某に比して報酬がやや高い点に鑑みれば、その余の工事先における基礎工事の原価率を八割と考えるのが相当である。よってその余の工事先については、別表九記載のとおり、基礎工事見積額から八割を減じて、基礎工事費を推計した。そして、これに前記工事先斉藤分に係る基礎工事費を加えた額が、標記の基礎工事費である。

(5) 建材費 一一万三六六四円

(6) 石積、ブロック諸費 二二万〇三〇〇円

(7) 瓦葺工事費 三六万九八三五円

(8) 左官工事費 一四六万四五四五円

(9) 板金工事費 九九万〇九八〇円

(10) 畳工事費 三五万五三五〇円

(11) ガラス工事費 六一万二三五〇円

(12) 塗装工事費 四三万三三六〇円

(13) 鉄骨、シャッター工事費 五五万七〇四〇円

(14) 水道工事費 六二万七三七八円

(15) 建具費 九一万四三三〇円

(16) 電気工事費 四五万〇二二〇円

(17) タイル工事費 三五万二五九〇円

(18) 鋼材費 一六万〇一九一円

(19) 登記手続費用 二万二六〇〇円

(20) 諸経費 八〇万五四五〇円

ア 燃料費 一七万二二九一円

前記(一)(18)ア同様、私用分に相当する二割を減じた額である。

イ 電気代 一万〇三二三円

領収書が一〇か月分しか存しなかったため、前記(一)(18)イと同様に一年分を推計して得られた額である。

ウ 電話代 三万九一九七円

領収書が一〇か月分しか存しなかったため、前記(一)(18)ウ同様、右一〇か月分の総額に一〇分の一二を乗じて一年分を推計し、更に右推計に係る額から私用分に相当する二割を減じたものである。

エ その他 五八万三六三九円

(21) 大工工賃 二一二万八六五〇円

詳細は別表一〇記載のとおり。日当額については、前記(一)(19)と同旨。

(22) 鉄工、配管工工賃 四万円

詳細は別表一一記載のとおり。日当額については、前記(一)(19)と同旨。

(23) 減価償却費(建物以外) 三〇万二一二四円

内訳は、次のとおり。

水準器 一万三五〇〇円

複写器 一万一三四〇円

計算器(二台) 三万九六八四円

自動車(三台) 二三万七六〇〇円

4  特別経費の計上漏れ

(一) 昭和四一年分支払利息 六万八五八二円

これは、前記「被告の主張」2(四)(1)から漏れた分である。

(二) 貸倒金

各年分とも請負工事代金債権の貸倒れがある。その注文主(債務者)と金額の内訳は次のとおりである。

(1) 昭和四〇年分

三倉博 一万八二三五円

(2) 昭和四一年分 四九万三五八〇円

内訳は次のとおり。

ア 中西洋之祐 一七万三五八〇円

イ 赤堀建設株式会社 三二万円

(3) 昭和四二年分

第一建鉄株式会社 三〇万八四二五円

(三) したがって、以上の計上もれの特別経費を収入金額から減算して所得金額を算出すべきであり、本件各処分にはその分だけ所得過大認定の違法がある。

六  被告の認否と再反論

1  「原告の反論」欄3の主張のうち、(二)(20)ウ及び(24)、並びに(三)(20)イ、ウ及び(23)は認め、その余は知らない。その余の「原告の反論」欄の主張は否認ないし争う。

2  原告は、本件推計について、被告において本件同業者の氏名等を明らかにしないから原告の反論は不可能であって、かかる主張は不適法であると主張する。

しかし、国家公務員法一〇〇条及び所得税法二四三条により国家公務員及び所得税に関する事務に従事する者には守秘義務が課せられており、事業を営む者にとって自己の年間収入金額や所得金額を公開されるということは、他の同業者に事業の規模や採算状況あるいは経営方針等を開示されることとなって事業経営上支障をきたすおそれが多分にある以上、被告の主張が前記の程度に止まらざるを得なかったのはやむを得ないところである。

3  原告は、本訴提起後六年余を経過した昭和五一年八月一三日の証拠調べ期日に至って突如として膨大な甲号証を提出し、これに基づいて事業所得に係る経費につきいわゆる実額反証を行っている。

しかし、本訴提起から前記期日まで口頭弁論回数は二六回を数えており、また本件係争年分は昭和四〇年から四二年分であるから右書証の大半は作成以来一〇年を経て法廷に提出されたことになる。しかも、前記のとおり、被告係官は本件各処分に先立ち再三再四原告にこれら各書面の提出を求め、原告は、これを拒む何らの理由もなかったにもかかわらず右要求に応ぜず、もはや関係帳簿の大部分が廃棄され、被告において右書証の正当性を確認できないような時期になって初めて右の如き主張・立証をなすに至ったものである。そうすると、原告のかかる訴訟遂行は訴訟における信義則に反し、許されないものというべきである。

4  課税庁において、その推計方法が合理的であり事実の所得金額と合致する蓋然性があることを立証したときは、他に特段の反証がない限り、これをもって真実の所得と認定されることになる。実額反証とは、右のような場合に直接資料により真実の所得を立証して右認定を覆すものであって、いわゆる間接反証事項である。したがって、実額反証によって推計課税を争う者は、単に反証としての立証活動を行なえば足りるものではなく、その実額の存在を合理的な疑いを容れない程度にまで証明すべき負担を負うものと解される。

ところが、原告提出の甲号各証の中には、領収書等で年月日が記載されていないもの、年度の異なるもの、宛名の記載のないもの、原告以外の宛名になっているもの等、その形式自体からして直ちに原告の主張に副うとはいえないものが極めて多い。結局、原告は、本訴を提起した後、被告に対抗する手段として、係争年中に作成し保存してあった一部の書証をもとに、係争各年分以前ないしは以後の書証を補充し、急遽辻褄をあわせて、これらを提出したとしか考えられないのであり、原告の主張する実額所得は到底採用されるべきものではない。

5  原告の実額主張を前提とすると、原告の事業所得金額は、昭和四〇年分が約七〇万円、同四一年分が約四〇万円、同四二年分が約二五万円にしかならない。

これでは利益がほとんど見込まれず、これらを大工の一日当たり手間賃として原告の主張する一九〇〇円で除した年間稼働日数も著しく低いものとなり、不自然である。

このことを生計費の面から検討しても原告主張額の不自然さが明らかである。すなわち、原告の家族構成は、昭和四〇年は三人、昭和四一年七月一〇日以降は四人であるところ、当時の横浜市の全世帯平均年消費支出額は、昭和四〇年が七〇万七三八三円(平均世帯員四・三〇人)、同四一年が七五万八九六八円(同四・二六人)、同四二年が八五万五一二〇円(同四・一八人)であり、原告主張額は右生計費を下回る非現実的なものといわざるを得ない。

6  売上原価及び一般経費は、特別経費のように独立して計算される費用と異なり、常に売上金額との対応関係においてのみ算出されるべきものである。そして、売上原価及び一般経費の収入金額に対する割合(経費率)は同一の業種業態によりほぼ一定の率であるのが経験則である。

したがって、原告において原告が他の同業者と著しく異なる事業形態を採っている等の特殊事情を明らかにしない限り、被告主張の同業者率を用いた値が合理的なものとして採用されるべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。

理由

一  本件各処分の経緯

本件各処分の経緯が請求原因1記載のとおりであること、本件各処分が建築業を営む原告の昭和四〇年分ないし同四二年分の事業所得金額を推計してなされたものであることは当事者間に争いがない。

二  推計課税の適否

1  そこで、まず、本件各処分について推計課税をする必要性があったか否かを検討する。

成立に争いのない乙第一ないし第三号証の各一、二、証人小西公男(第一回)及び同斉藤和子の各証言によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告が提出した昭和四〇年分と同四一年分の確定申告書には、事業所得と給与所得についてその総額のみが記載され、その算定根拠となる収入金額、必要経費の額は記載されていなかったこと、

そして、右昭和四〇年分確定申告書において、事業所得金額が二一万六四〇〇円、給与所得金額が二四万三六〇〇円と記載されていたところ、原告の建築請負先との取引金額が少なくとも三件で約九五〇万円あることは被告に判明していたこと、同様に昭和四一年分については、事業所得金額三五万六〇〇〇円、給与所得金額二六万四〇〇〇円と確定申告書に記載されていたところ、被告においては、原告の同年分取引として少なくとも二件で約五〇〇万円のものがあることが判明していたこと、

(二)  そこで被告は、原告の申告内容に疑問を抱き、調査に着手したこと、被告所部の小西係官は、昭和四二年一一月二一日午前九時半ころ原告方に臨場し、鶴見税務署の小西という者であるが、昭和三九年分以降の原告の所得の調査に伺った旨を居合わせた原告の妻に告げたが、原告が仕事に出かけて不在であったこと、小西係官は、原告の妻に対し、帳簿や取引関係書類の存否について尋ねたところ、原告の妻は、小西係官に対し、原告の建築業についての取引関係書類は原告が作成管理していて同女には判らない旨を述べたこと、そこで、小西係官は、同女に対し、翌日の再訪問と原告との面接の希望を伝え、原告の都合がつかない場合には、帳簿や取引関係書類を同係官において調査できるように依頼したこと、

(三)  小西係官が翌日(同月二二日)午前九時半ころに原告方に臨場したところ、原告は仕事に出かけて不在であり、原告の妻から、原告は帳簿書類等は忙しくて出せないと述べていた旨が伝えられたこと、また、原告の妻は、小西係官に対し、私のところはちゃんと申告しているから調査の必要はないでしょうと述べ、そのうち、テープレコーダーを持ち出してきて、マイクを同係官の口もとに向け録音を始めたこと、

原告は、川崎市鶴見区在住の大工、左官屋等で組織する鶴見建設労働組合に所属し、同組合の事務局は原告方の裏手に位置していたところ、小西係官と原告の妻とが右のとおり折衝中に、右組合事務局長の岩井勇が原告方を訪れ、同係官と原告の妻との折衝に介入し、原告の帳簿書類等を探したければ令状を持って来い等と発言したこと、一方、同係官は、原告の妻に対し、テープは止めなさい、帳簿を出して下さい等と申し向け、組合の岩井事務局長には、帰宅を要請したこと、

同係官は、この日の調査の続行を断念し、原告の妻に原告の都合の良い日を聞いておくように依頼したこと、これに対し、同女は、主人は忙しいから今年はだめだ、来年もだめだ、再来年ならよい等と答えたこと、

(四)  小西係官は、原告からの連絡がないので、その後、昭和四二年一一月二四日、二五日、二七日、二八日に原告宅に臨場したが、原告は不在であったこと、そして、原告の妻は、前同様に録音用のマイクを同係官に突きつける等して、同係官の調査協力要請を拒否したこと、

そこで、小西係官はもう一名の係官と共に、原告が仕事に出かける前なら原告に面会ができると考え、昭和四二年一二月六日の午前七時三〇分ころに原告方に臨場したところ、原告は、胃の具合が悪くて寝ているので会えないということであったこと、

小西係官らは、その後、同月一二日、一三日、同四三年一月二五日、二六日、二九日、三〇日に原告方に臨場したが、原告は不在であり、原告の妻からも調査の協力は得られなかったこと、

(五)  小西係官は、昭和四三年二月三日に原告方に臨場してはじめて原告に面会できたこと、原告は、同係官に対し、仕事の内容が請負だけであって、給与所得になる常傭方式のものはなく、住宅の新築や増改築が主な仕事である旨、また工事先、取引金融機関、木材の仕入先の一部を口頭で明らかにしたこと、しかし、それらは、同係官が第二回目に原告方へ臨場した後に着手してその時までにしていたいわゆる反面調査で既に把握していたものにとどまったこと、また、原告は、帳簿書類等については、提示を拒否したこと、

(六)  小西係官は、右の昭和四三年二月三日の帰去の際、原告に対し、帳簿やいわゆる原始記録を四、五日中に捜しておくことを要望したが、原告から同係官に連絡はなかったこと、同係官は、同月八日、同年五月二七日及び同月三一日に原告方に電話を入れたが、原告は不在であり、帳簿書類等の提出要請について原告から回答はなかったこと、

以上の各事実が認められ(但し、原告の確定申告書の事業所得欄と給与所得欄につき、総額しか記載されず、内訳の記載がなかったこと、被告の係官が昭和四二年一一月二一日から同四三年二月三日までの間に合計一五回にわたり原告宅に臨場したこと、以上は当事者間に争いがない。)、これに反する証拠はない。

右認定事実によれば、原告があえて極めて不完全な確定申告書を提出するなどしたことから、その所得内容について被告に調査の必要があったにもかかわらず、原告は小西係官の調査にほとんど協力しなかったものということができる。

ところで、原告は、原告が小西係官の調査に協力できなかったのはやむを得なかった旨を主張し、その理由として三点を挙げている。まず、第一点は、被告は原告に対する調査を開始する以前に反面調査を完了させていながら、原告が鶴見建設労働組合に参加しているため、前記調査はいやがらせのためになされた、というものである。しかし、右1(五)で認定のとおり、被告による反面調査は極く限られたものでしかなく、とりわけ原告に対する調査開始以前に反面調査を完了させていたとの原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。また、被告による調査がいやがらせを目的としたものであるとの原告の右主張事実を認めるに足りる証拠もない。原告の主張する理由の第二点は、小西係官が調査の際に調査の目的、理由につき何ら具体的に説明することなく権力的な言動に終始したというものである。しかし、前記1認定のとおり、小西係官は、原告の妻に対し原告の昭和三九年分以降の所得調査である旨を告げているのであるから、何ら調査について説明がないということはできない。のみならず、原告自身、極めて不完全な確定申告書を提出しているのであるから、その調査理由を知悉していたものということができる。また、小西係官が権力的な言動に終始した旨の原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。次に、原告の主張する理由の第三点は、小西係官が原告の仕事の都合、次男の健康、妻の妊娠、原告の病気等原告側の事情を一切考慮せず、一方的かついやがらせ的に連日の臨場期日を指定して実行したというものである。しかし、前記1認定事実に照らすと、小西係官が原告側の事情を一切考慮せず、一方的かついやがらせ的に調査を実行したものとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。なお、右1の認定に照らすと、小西係官が調査理由の具体的詳細な説明をしていないことと、連日のように原告方へ臨場したことは、原告が小西係官の調査に応じようとしないのみならず、原告の家族らが同係官にマイクを向けるなどの異常な態度を示すなどして、当初から徹底的に調査を拒否したことによるものであるということができても、それが原告の調査非協力を正当化するものということはできない。加うるに、元来、税務署職員には、税法に従った適正公平な課税を実現する手段として質問検査権が認められているのであって、その行使の時期、程度等の細目については実体法上特段の定めはないというものの、右質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、当該職員の合理的選択に委ねられており、また、確定申告期間経過前といえども質問検査が許されないものではなく、実施の日時場所の事前通知、調査理由及び必要性の個別的具体的な告知も法律上一律の要件とされているものではないと解される(最高裁昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁)から、右1認定のとおりの原告の非協力的な態度に照らすと、小西係官の右の点の措置には、何らの違法はなく、原告の調査非協力を正当化する事情とはならないことは明らかである。

そうすると、原告が正当な理由もなく被告による税務調査に協力せず、被告は原告の所得を原告の帳簿書類等により把握することができなかったのであるから、被告は原告の所得を推計する必要があったものといわなければならない。

2  したがって、被告が推計により本件各処分をしたこと自体に違法はないということができる。なお、前記一及び二1から明らかなとおり、本件各処分のうち昭和四二年分についてのものは、その確定申告期限前の調査とそれに対する原告の非協力をも踏まえて推計によりなされているわけであるが、右2の説示から明らかなとおり、このことにも違法はないということができる。

三  推計の合理性と実額反証の成否

1  判断の順序

原告は、昭和四三年六月に推計により本件各処分がなされ、不服申立て手続も終了し、本訴が提起された後の昭和五一年一〇月六日の口頭弁論期日において、原告の所得金額を実額として把握し得る旨を主張し、それを裏付けるものとしての領収書等を提出し、それらが同年一二月一三日の証拠調べ期日において取り調べられたことが記録上明らかである。

しかし、このような場合にあっても、本件各処分がなされた当時において推計の必要性があった以上、本件各処分は存立の基礎を直ちに失なうものではない。そして、その推計方法に合理性があり、それによって得られた所得金額が真実の所得金額に合致する蓋然性がある旨が立証されたときは、原告は右推計による所得金額が真実の所得金額すなわち実額とは一致しないことを主張立証しない限り、推計によりなされた本件各処分の所得金額の認定には違法がないものと解するのが相当である。

そこで、まず、本件各処分の根拠とされている被告のした本件推計の合理性を検討し、それが肯定された場合には、次に原告の行なった実額反証により、右推計による所得金額が実額と一致しないものと認められるかを検討することとする。ところで、本件推計は、原告の事業所得に係る売上原価及び一般経費を推計するものであり、その方法は、争いのない原告の原告の事業所得に係る収入金額に同業者の経費率を乗じるというものである。そこで、原告の事業所得に係る売上原価及び一般経費について、本件推計と原告の実額反証とを対比して検討する。

2  原告の事業所得に係る総収入金額

建築業を営む原告は、前記二1(5)のとおり、住宅の新築や増改築工事を請け負っていたところ、その工事代金収入が「被告の主張」欄2(一)のとおりであったことは当事者間に争いがない。但し、昭和四二年分の工事代金収入は、被告主張の値引前価額一七一二万七〇〇二円ではなく、右から値引額一万二〇〇〇円(被告は算出所得金額の段階でこれを認めているので、昭和四二年分工事代金収入の中に一万二〇〇〇円の値引きがあったことは当事者間に争いがないものである。)を控除した原告主張額一七一一万五〇〇二円が争いのない価額であると解するのが相当である。

3  事業所得に係る売上原価及び一般経費の推計

(一)  証人本多三朗氏の証言により成立の認められる乙第一六号証の一、二、第二八号証、第四四号証及び証人本多三朗の証言によれば、東京国税局長は、昭和四五年一一月一八日付けで鶴見税務署長に対し、(1)建築(木造)請負業を営む個人事業者のうち、昭和四〇年分ないし同四二年分について青色申告書を提出した者で、暦年事業を継続し、収入金額が各年分とも五〇〇万円以上五〇〇〇万円未満であり、係争中や年の途中で業態を変更していない者を抽出し、(2)それらの業者の各年分の収入金額、売上原価及び一般経費の額等を当該業者の青色申告決算書に従って記載する等して、「個人事業経営者の所得調査事績報告書」を作成する旨を指示したこと、鶴見税務署の本田三朗係官が右の作業を担当したところ、右抽出基準に該当する業者が無作為に八人抽出され、それらの各収入金額、原価及び一般経費の額、後者の前者に占める割合並びに右割合の平均値(小数点第二位未満切上)が別表一のとおりになったこと(但し、A業者の昭和四一年分の「原価及び一般経費」の額は、一三六三万〇五〇一円でなく、一三六三万〇四八一円である。)が認められる。

(二)  そうすると、右八人の同業者の平均経費率を原告の収入金額に乗じて原告の売上原価及び一般経費を推計するという本件推計は、業種、立地等において原告と類似する同業者の平均比率を原告の場合にあてはめるわけであるから、合理性の高いものと認めることができる。

そして、右のようにして得た原告の売上原価及び一般経費の額(円未満四捨五入)は、次のとおりである。

昭和四〇年分 一五八二万八七九三円

昭和四一年分 一三一四万六九五六円

昭和四二年分 一五一〇万七四一二円

(右金額中、昭和四〇年分及び昭和四一年分は、「被告の主張」欄2(二)の金額と同一であるが、昭和四二年分は、その収入金額が前記のとおり一七一一万五〇〇二円であるので、これに右同業者の平均経費率を乗じた一五一〇万七四一二円となる。)

(三)  なお、右同業者の収入金額と原告の収入金額との間の開差が大きい場合もあるので、収入金額が原告分の二分の一以上で二倍以下の同業者に限定すると、業種や立地条件だけでなく規模がなお一層原告と酷似するものとも思われる。そうすると、昭和四〇年分は、別表一のA、C、D及びHの四業者が該当し、その平均経費率は八九・九〇パーセント、これに基づく原告の売上原価及び一般経費の額は一六一七万〇五五一円となる(円未満四捨五入)。次に、昭和四一年分は八業者全部が右基準に該当するため、前記(二)と同額(一三一四万六九五六円)となる。さらに、昭和四二年分は、同A、B、C、G及びHの五業者が右基準に該当し、その平均経費率は八九・七〇パーセント、これに基づく原告の原価及び経費の額は一五三五万二一五七円となる(円未満四捨五入)。

4  本件同業者の特定の要否

本件推計に用いられた別表一記載の八人の同業者は、その氏名、営業場所の所在地が不明であり、業務内容等についても、別表一の金額及びその元になっている前掲乙第一六号証の二、第二八号証、第四四号証中のその余の項目についての金額並びに「被告の主張」欄2(二)末尾記載の資格、経験年数、従業員数以外は明らかにされていない。原告は、そのため本件推計に対する認否、反論が不可能であり、被告の本件推計の主張は不適法である旨を主張する。

しかし、事業を営む者にとって自己の年間収入金額や所得金額を税務官庁にいわれなく公開されることは、事業経営上支障をきたすおそれがあり、プライバシーを侵害されるおそれもあるので、右公開は原則として許されないことといわなければならない。しかも、被告が本件推計をせざるを得なかったのは、記載内容の真実性に疑いを持たれるような確定申告書を提出した原告が、自己の業務内容を帳簿書類等によって正確に被告に説明することを一切拒否したからにほかならないのみならず、原告としては、本件推計それ自体を全面的に否定することにもなる自己の取引内容の実額による開示という本件で採ったような防御手段を用いることもできるのである。このように、同業者の氏名、業務内容の詳細を開示することによって失なわれるおそれのある当該同業者の利益、及び右開示ないしこれによって同業者が不利益を受けることがさらにもたらさすおそれのある税務行政上の不都合と、これを開示されないことによって受ける原告の防御上の不利益の僅少性ないし代替防御手段の可能性及びこのような事態を自ら招いた原告の帰責性とを対比するならば、本件同業者の氏名、業務内容等の具体的な開示がないのもやむを得ないものといわざるを得ない。原告の前記主張は採用することができず、本件推計が不適法ということはできない。

5  昭和四〇年分の経費実額立証の成否

原告主張の売上原価及び一般経費が本件推計を覆すに足るものであるか否かを検討することにするが、昭和四〇年分については、少なくとも原告提出の次の証拠に係る費用が真実の経費を裏付けるものとは認め難いのである。(なお、一万円未満の支出を示す証拠は、便宜上検討対象から除外した。)

(一)  建築確認費用関係分

(1) 甲第二八号証の一の一二万円

右は、赤堀建設株式会社(以下「赤堀建設」という。)発行名義の原告に対する一二万円の領収書であるが、その作成日付が昭和四一年三月一日とされていることからも右領収書は原告の同四〇年分の建築確認費用の支出を示す証拠とは認め難い。なお、原告は、資格のない原告に代わって建築確認届を出して貰った赤堀建設に対し、原告がその費用を支払ったもので、当該工事自体は原告自らがしたものである旨供述する(昭和五一年八月一三日の原告本人尋問調書一二丁)が、右領収書には建築確認費用ではなく設計料と記載されていることに照らし、原告本人の右供述も措信できず、右領収書は、いずれにしても原告の昭和四〇年分の建築確認用の支出を示す証拠とは認められない。

(2) 甲第二八号証の二の一万五〇〇〇円

右は、赤堀建設発行名義の原告に対する領収書であるが、作成日付が昭和四一年三月一日とされており、(1)と同様の理由により、原告の昭和四〇年分の建築確認費用の存在を示す証拠とは認め難い。

(3) 甲第二八号証の三の一万八五〇〇円

右は、池渕隆久発行名義の領収書であるが、その宛名が原告ではなく、原告による支払いを示す証拠とは認め難い。かえって、右領収書の宛名が若松鶴蔵となっており、同人が原告のした工事の施主の一人であることが弁論の全趣旨から認められることに照らし、右領収書は、建築主である若松が、自己資金の不足の都合から金融公庫に融資を依頼したことにより発生した同人自身による特異な支出があったこと(右領収書の「但書」欄に「住宅金融公庫二階新築代願料」との記載がある。)を物語るにすぎず、いずれにしても原告が建築確認費用を支出したことを的確に示す証拠とはいえない。

(二)  材木費関係分

(1) 甲第二九号証の三四の一三万三四四一円

右は、赤谷木材合資会社(以下「赤谷木材」という。)発行名義の原告宛の領収書であるが、その作成日付が昭和三九年一一月二九日であり、原告の昭和四〇年分の材木費の支出を示すものとはいい難い。

この点につき、原告は、昭和四〇年分の売上に計上した宇野邸の工事に着手した時期が同三九年九月ごろであったから、それ以後仕入れた材木費はすべて同四〇年分の原価とした旨供述する(昭和五三年八月二八日本人調書四二丁)。しかしながら、原告の昭和五一年一〇月六日付け準備書面で自認するとおり、原告は、係争各年ころ年間約十数件の工事を施行していたものであり、同三九年度においても右宇野邸以外の工事を併行して行っていたと思われる。そうすると、昭和三九年九月以降に仕入れた材木費の中には、当然同年中に完成引渡しをした工事の売上原価を構成する支出が含まれていると推認されるのであり、いずれにしても、右領収書をもって昭和四〇年分の材木費の支出があったものと認めることはできない。

(2) 甲第二九号証の三六の一四万二〇〇〇円と同号証の四〇の三万一七七五円

右は、赤谷木材発行名義の原告宛の領収書であるが、作成日付が昭和三九年一二月三〇日及び同年一一月七日であり、(1)と同様の理由により、原告の昭和四〇年分の材木費の支出を示す証拠とはいい難い。

(3) 甲第二九号証の三五の二五万円、同号証の三九の一六万四九〇〇円、同号証の五一の一四万一八五〇円及び同号証の五五の一五万六九〇〇円

右は、いずれも中島木材店発行名義の原告に対する木材代金の領収書であるが、その作成日付が昭和三九年一二月三〇日(甲第二九号証の三五)、同年一一月三〇日(同号証の三九)、同年九月三〇日(同号証の五一)及び同年一〇月三一日(同号証の五五)であり、(1)と同様の理由により採用できない。

(三)  基礎工事費関係分

(1) 甲第三二号証の二の一〇万円

右は、榎本賀一発行名義の原告に対する領収書であるが、作成日付が昭和三九年一二月三一日であり、原告の昭和四〇年分の基礎工事費の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第三二号証の三の一万五〇〇〇円

右は、鳶土木業田中銀蔵の発行名義に係る原告宛の領収書であるが、作成日付が昭和三九年一一月三〇日であり、原告の昭和四〇年分の基礎工事費の支出を示す証拠とは認め難い。

(四)  瓦葺工事費関係のうち、甲第三五号証の二の三万五六〇〇円

右は、斉藤瓦店(斉藤六郎)発行名義の原告に対する領収書であるが、右領収書の作成日付が昭和三九年一二月二九日であることに照らし、右領収書は、原告の昭和四〇年分の瓦葺工事費の支出を示す証拠とは認め難い。

(五)  左官工事費関係分

(1) 甲第三六号証の五の五万円

右は、左官工事請負業後藤秀次発行名義の原告に対する領収書であるが、作成日付が昭和三九年一二月三一日であることに照らし、原告の昭和四〇年分の左官工事費の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第三六号証の八の九万〇九五〇円

右は、有限会社後藤左官工業所発行名義の原告宛の請求書であるが、その作成日付が昭和四一年二月一四日であることに照らし、原告が右請求書どおりに支払ったとしても、それは昭和四〇年分の左官工事費の支出とは認め難い。

(六)  畳工事費関係のうち、甲第三八号証の二の二万三一〇〇円

右は、畳製造一式請負業横溝政蔵発行名義の原告に対する畳工事代の領収書であるが、作成日付が記載されていないため、右領収書は、未だ原告の昭和四〇年分の畳工事費の支出を示す証拠として採用することはできない。

(七)  塗装工事費関係分

(1) 甲第四〇号証の三の四万六〇〇〇円

右は、川上実発行名義の原告に対する領収書であるが、作成日付が昭和四一年三月八日である。また、川上実の住所、業種、右受領金の性質については、右領収書には何らの記載もなく、原告本人の供述(昭和五一年八月二八日の原告本人尋問調書四五丁)も右の点を十分に説明するものではない。

したがって、いずれにしても、右領収書をもって原告の昭和四〇年分の塗装工事費の支出を示す証拠ということはできない。

(2) 甲第四〇号証の四の四万三〇〇〇円

右は、領収書の控の用紙を用いて、川上実発行名義で原告に対して領収した旨が記載されているものである。しかし、領収書控の用紙を領収書代わりに用いることは通例のことではないので、右証拠が原告からの金員の受領を示すものであること自体に疑議がある。のみならず、その作成日付は昭和四一年三月八日であり、その他(1)と同様の疑問がある。

したがって、いずれにしても、右証拠を採用することはできない。

(3) 甲第四〇号証一〇の四万三三五〇円及び同号証の一二の四万一八七五円

右は、「川上」発行名義の原告に対する請求書であるが、作成日付が記載されていない。したがって、仮に、原告が右請求書どおりの支払いをしたとしても、これをもって原告の昭和四〇年分の塗装工事費の支出とまでは認めることができない。

(八)  水道工事費関係のうち、甲第四二号証の四の二六万六二〇〇円

右は、日付、宛名、文書の表題の記載すらなく、白紙小片に書かれたメモであり、作成者も不明である。したがって、右は、原告の昭和四〇年分の水道工事費二六万六二〇〇円の支出を示す証拠とは認め難い。

(九)  建具費関係のうち、甲第四三号証の二の一四万六四一〇円

右は、和洋建具請負業金子正雄発行名義の原告に対する領収書である。しかし、右領収書の作成日付は昭和三九年一二月九日であることに照らし、右領収書は、原告の昭和四〇年分の建具費の支出を示す証拠とは認め難い。

(十)  電気工事費関係分

(1) 甲第四四号証の一の四万二二〇〇円

右は、電気工事請負斉藤電気商会発行名義の領収書であるが、宛名が原告ではなく「清水様」となっており、原告が斉藤電気商会に電気工事費を支出したことを示す証拠とはいい難い。のみならず、証人斉藤勇の証言によれば、斉藤電気商会は原告の兄の斉藤勇が経営するものであるが、同人は昭和四〇年ころ脳溢血で入院していたことが認められることに照らしても、前記領収書は、原告が斉藤電気商会に電気工事費を支出したことの証拠として採用し難いといわなければならない。

(2) 甲第四四号証の二の六万四三〇〇円、同号証の三の四万六九〇〇円、同号証の四の一万二二一〇円及び同号証の五の一九万八一〇〇円

右は、斉藤電気商会発行名義の請求書であるが、作成日付の記載がなく、宛名は、玉木(甲第四四号証の二)、若松(同号証の三)、松原(同号証の四)又は工藤(同号証の五)とされていて原告ではない。加えて、(1)のとおり斉藤電気の斉藤勇が入院中であったものである。したがって、右請求書を原告の昭和四〇年分の電気工事費の支出を示す証拠として採用することはできない。

なお、甲第四四号証の四について、原告は、右請求書の宛名は原告が請け負った工事の施主の名前になっているだけであって、領収に係る電気工事費を支出したのは原告である旨を供述する(昭和五三年一一月八日の原告本人尋問調書二二丁)が、右内容の如き特別の事情があったことを裏付ける証拠はなく、前記の説示に照らしても、原告本人の右供述は措信できない。

(3) 甲第四四号証の六の四万五〇〇〇円及び同号証の一五の二万九五〇〇円

右は、(2)と同趣旨の請求書であり。作成日付は記載されているものの、宛名が原告でなく工藤(甲第四四号証の六)又は三倉(同号証の一五)とされているほか、(2)と同様の疑問があり、採用できない。

(4) 甲第四四号証の七の内金五万一九〇〇円

右は、(1)と同趣旨の領収書であるが、宛名及び作成日付の記載がないほか、(1)と同様の疑問があり、原告が昭和四〇年分の電気工事費の支払いであると主張する右内金額(領収書の受領金額は一〇万円である。)について、原告がこれを昭和四〇年に支出したことを示す証拠とは認められない。

(5) 甲第四四号証の八の二万五九九〇円、同号証の一一の三万八〇〇〇円及び同号証の一三の一万九一五〇円

右は、(1)と同趣旨の領収書であるが、その宛名が清水でなく、沢口(甲第四四号証の八)、宇野(同号証の一一)又は石井(同号証の一三)とされ、作成日付の記載がないほか、(1)と同様の疑問がある。したがって、採用できない。

(6) 甲第四四号証の一二の四万円及び同号証の一四の二万二六〇〇円

右は、いずれも(1)と同趣旨の領収書であるが、宛名が清水でなく宇野(甲第四四号証の一二)又は斉藤昭司(同号証の一四)とされているほか、(1)と同様の疑問があり、採用できない。

(7) 甲第四四号証の九の二万二七五〇円

右は、杉本電業株式会社発行名義の斉藤電気宛の納品書であり、原告が支出した電気工事費を示す証拠とは認められない。

(二) タイル工事費関係のうち、甲第四五号証の一の六万五三〇〇円、同号証の二の六万八六〇〇円、同号証の三の七万二五〇〇円、同号証の四の四万〇一〇〇円、同号証の五の六万五八〇〇円、同号証の六の五万八六〇〇円及び同号証の九の一〇万円

右は、いずれもタイル・煉瓦・ブロック・各種浴室工事請負各風呂釜販売の林工業所発行名義の原告宛(但し、甲第四五号証の一、二のものは宛名が空欄)の領収書であるが、作成日付が空欄(甲第四五号証の一ないし四及び同号証の六のもの)又は不完全(同号証の五は単に七月二五日と、同号証の九は単に一月三一日とだけ記載されている。)であることに照らし、原告の昭和四〇年分のタイル工事費の支出を示す証拠とは認め難い。

(三) 諸経費中の「その他」のうちの甲第三一号証の一の二万四〇〇〇円

右は「日本カラー鎌田」発行名義の原告宛の領収書であるところ、原告本人は、施主に交付するのと検査用とに自己の完成させた家屋を忍真撮影した代金と説明する(昭和五三年八月二八日の原告本人尋問調書五〇丁)。しかし、右書証の発行人である「鎌田某」なる人物がどこの誰か全く不明であり、右書証に掲記された「カラーフォト」の文書から写真関係とは想像できるものの、係争各年分の原告の請負工事はそのほとんどが一般木造家屋であることが原告本人尋問の結果から認められるので、請負工事を完成した建築物を写真撮影する必要があったとは認め難いといわざるを得ない。したがって、右原告本人の供述は措信できず、他に右領収書に係る支出を原告の事業のための必要経費と認めるに足りる証拠はないので、右領収書は採用できない。

6  昭和四一年分の経費実額立証の成否

昭和四一年分についても、5の昭和四〇年分と同様に原告提出の証拠のうち便宜上一万円以上の支出が記載されているものについて検討していくと、少なくとも次の証拠に係る費用が真実の経費を裏付けるものとは認め難い。

(一)  建築確認費用関係分

(1) 甲第六〇号証の五の一万八〇〇〇円

右は、赤堀建設発行名義の領収書であるが、宛名及び作成年月日とも空欄であり、採用できない。

(2) 甲第六〇号証の三の二万二五〇〇円及び同号証の四の一万四三〇〇円

右は、池渕隆久発行名義の領収書であるが、宛名は原告ではなく(甲第六〇号証の三が山口金福、同号証の四が株式会社十全商会)、採用できない。

(二)  材木費関係分

(1) 甲第六一号証の六の七万円

右は、誠ベニヤ商会峰岸誠次郎発行名義の原告宛の領収書である。しかし、証人藤井正信及び同峰岸誠次郎の各証言により真正に成立したものと認められる乙第五〇号証、証人藤井正信及び同中島治雄の各証言により真正に成立したと認められる乙第五五号証及び右各証人の証言によれば、峰岸誠次郎は原告との間に昭和四二年に取引を始めたものであって、それまでは取引がなかったこと、右取引に際し、同人は原告から税金対策上必要であるからと依頼され、金額、日付が空欄の峰岸発行名義の領収書を何枚か原告に交付したこと、甲第六一号証の六の領収書は峰岸が金額、作成日付、宛名を記載したものではないこと、他方、中島治雄は、取引先の原告から依頼され、右のとおり空欄となったままの峰岸発行名義の領収書を原告から交付され、金額、日付、宛名を書き込んで完成した甲第六一号証の六の領収書を原告に手交したが、中島が右領収書に記載された金額を原告から受領したわけでもなかったこと、以上の各事実が認められる。

右のとおりであるから、甲第六一号証の六の領収書は、架空のものであって、採用できない。

(2) 甲第六一号証の八の一〇万二四七九円

右は、「中島代理高根」発行名義の原告宛の領収書である。しかし、前掲乙第五五号証及び証人中島治雄の証言によれば、高根なる人物は実在せず、右領収書は、中島治雄が原告から依頼されて実際には存在しない金員の授受を記載したものであることが認められる。

したがって、甲第六一号証の八は原告の材木費の支出を示す証拠とは認められない。

(三)  石積、ブロック諸費のうち、甲第六五号証の一の二万円

右は、林工業所発行名義の原告に対するブロック塀工事費の領収書であるが、発行年の記載がないので、昭和四一年分のブロック諸費の支出を示す証拠とは認められない。

(四)  瓦葺工事費関係のうち、甲第六六号証の五の二万九五〇〇円と同号証の八万円

右は、「京町山田」と手書きされた者の発行名義に係る原告宛の仮領収書である。しかし、仮領収書については正規の領収書と重複する可能性があることなどに照らし、これをもって、直ちに採用に値する証拠とは認め難い。

(五)  板金工事費関係のうち、甲第六八号証の一九の一〇万二八四五円

右は、岩崎銅工店発行名義の原告宛の領収書であるが、作成年月日欄が空欄であることに照らし、原告の昭和四一年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(六)  畳工事費関係のうち、甲第六九号証の一の一万八〇〇〇円及び同号証の六の一万六八〇〇円

右は、前掲畳業者横溝政蔵の発行名義に係る原告宛の畳工事代の領収書である。しかし、作成年月日欄が空欄であることに照らし、昭和四一年分の支出を示す証拠とは認め難く、採用できない。

(七)  ガラス工事費関係のうち、甲第七〇号証の五の二〇万円

右は、南木硝子店発行名義の原告宛の仮領収書である。しかし、仮領収書については、(四)と同様の理由から、採用することができない。

(八)  塗装工事費関係のうち、甲第七一号証の一の三万円

右は、責字堂発行名義の原告宛の建築塗装代の領収書であるが、作成年月日が昭和四六年一二月三一日であり、原告の昭和四一年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(九)  水道工事費関係分

(1) 甲第七三号証の一の一三万八〇〇〇円、同号証の七の五万九二三五円、同号証の九の八万二〇九〇円、同号証の一一の二万三〇五〇円及び同号証の二〇の四万〇八五五円

右は、いずれも「水道・タイル等有限会社港水道工業所」発行名義の原告宛の領収書であるが、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四一年分の支出を示す証拠とは認め難い。

なお、証人藤井正信の証言によって真正に成立したと認められる乙第五八号証によれば、右領収書のうち甲第七三号証の一一は、昭和四四年二月一〇日に発行されたことが右(有)港水道によって確認された事実が認められ、右領収書が原告の昭和四一年分の支出でないことが明らかである。

(2) 甲第七三号証の一七の一万九二五六円

右は、有限会社五十嵐ストレート工業所発行名義の領収書であるが、宛名が「上殿」とあるだけであり、これをもって、直ちに採用に値する証拠とは認め難い。

(十)  建具費関係のうち、甲第七四号証の七の一万一〇〇〇円

右は、「和洋建具製作岩澤木工所」発行名義の領収書であるが、宛名が若松となっており、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(十一)  電気工事費関係分

(1) 甲第七五号証の三の二万四五五〇円及び同号証の四の六万六八八〇円

右は、前記5(十)で説示した原告の兄の斉藤勇が経営する斉藤電気商会発行名義の領収書であるが、宛名が原告ではなく(甲第七五号証の三が大橋、同号証の四が十全商会)、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四一年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第七五号証の二の三万〇一〇〇円、同号証の七の四万七七〇〇円、同号証の九の六万四〇二〇円、同号証の一〇の二万六〇五〇円、同号証の一一の二万五四四〇円、同号証の一四の五万四〇一三円及び同号証の一五の三万〇三〇〇円

右は、いずれも斉藤電気商会発行名義の請求書であるが、宛名が原告ではなく、武田(甲第七五号証の二及び同号証の一五)、中西(同号証の七)、福原(同号証の九)、山口(同号証の一〇、一一)及び古川(同号証の一四)となっており、また、右のうち、甲第七五号証の一〇、一一の請求書の作成年月日欄は空欄である。したがって、これらは、原告の昭和四一年分の電気工事費の支出を示す証拠とは認め難い。

(3) 甲第七五号証の五万二二〇〇円及び同号証の六の五万〇四一〇円

右は、作成名義人不明の請求書であるが、宛名が佐野となっていて原告ではないので、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(4) 甲第七五号証の一二の四万七一三八円及び同号証の一三の一〇万円

右は、磯田電材株式会社発行名義の斉藤電気商会宛の領収書であって、原告宛のものではないところ、証人藤井正信の証言により成立の認められる乙第六三号証によれば、右領収書は、その記載どおり、磯田電材と斉藤電気商会の取引に係るものであって、磯田電材と原告との取引に係るものではないことが認められる。

したがって、右領収書は、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(十二)  タイル工事費関係のうち、甲第七六号証の三の六万一三〇〇円、同号証の九の七万七〇〇〇円、同号証の一一の二万五五〇〇円及び同号証の一二の五万六〇〇〇円

右は、いずれも前記5(十二)説示のタイル、ブロック等を扱う林工業所発行名義の原告宛の領収書であるが、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四一年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(十三)諸経費中の「その他」関係分

(1) 甲第七九号証の三五の五万円

右は、名刺状の紙片の裏に領収文言のメモ書きのされたものであるが、発行者、宛名、支払事由のいずれも記載されておらず、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第七九号証の六六の五万八〇〇〇円

右は「日本カラーフォートサービス同友会鎌田」発行名義の原告宛の領収書であるが、これが建設業を営む原告の経費に該当する理由が明らかでない。

発行名義人の名称からすれば写真関係の費用と思われるが、それならば特段の事情でもない限り建設業者たる原告の必要経費になるとは思われない。原告本人は、右は原告が日本カラーフォートサービスからレンタカー(マイクロバス)を借りたときの使用料の支払いを示すものであると供述する(昭和五八年八月二八日の原告本人尋問調書五〇丁)が、措信できない。かえって、日本カラーフォートサービス同友会なる名称から想像すると、右書証は、寧ろ事業に関連した支出にかかるものというより写真愛好会か何かの単なる同好会の旅行について原告が偶々幹事を務めたことにより入手した領収書と考える方が妥当であって、そうだとすれば、当然必要経費とは認められない(そして、右のように日本カラーフォートサービスを考察するとき初めて、同会発行の領収書が甲第七九号証の六〇・六三・六四・六六・六九・七一と金額的にも枚数的にもぼう大なことが納得できるものである。もっとも、前述のとおり一万円未満の書証は検討対象から除外してある。)。

(3) 甲第七九号証の七九の一万〇八〇九円

右は、会津若松市の東山ホテル発行名義の領収書であるが、宛名が野田とされ、九名分の宿泊代の領収を示すものと推測される。しかし、それが原告の必要経費となる支出であるとは認め難い。この点につき、原告本人は、宛名の野田は原告の許で働いていた者であり、福島方面へ人探しのために旅行した際の費用である旨供述する(昭和五三年八月二八日の原告本人尋問調書二二丁)が、土木工事業の人夫等を探すのと異なり、原告のように一定の技術がなければ用に供しえない建築業にあって、たかだか一回程度のバス旅行で募集できるとは考えられないのみならず、当該旅行の参加人員が九名にのぼっていることから人探しの旅行であるとの右供述は到底信じ難い。

(4) 甲第七九号証の八四の一万三〇〇〇円

右は、合資会社いとや発行名義の領収書であるが、宛名は「上様」であり、支払事由の記載もないので、原告の経費の支出を示す証拠とは認め難い。

(5) 甲第七九号証の八六の三万二二九〇円

右は、京都駅前の旅館美也古館発行の一四人分の宿泊料の領収書である。しかし、宛名が「上様」となっていて原告の支出か否か明らかでないし、このような支出が原告の必要経費になるかも疑わしく、採用できない。

7  昭和四二年分の経費実額反証の成否

昭和四二年分についても、前記5、6の前年分と同様に原告提出の証拠のうち便宜上一万円以上の支出を示すものについて検討するが、次のものは採用し難い。

(一)  建築確認費用関係のうち、甲第一一七号証の一の一万二五〇〇円及び同号証の七の一万一六〇〇円

右は、池渕隆久発行名義の領収書であるが、宛名は原告ではなく(甲第一一七号証の一が勝田栄三、同号証の七が秋元忠三)、採用できない。

(二)  材木費関係分

(1) 甲第一一五号証の一の七万円、同号証の四の一万〇二〇〇円、同号証の五の七万二二九〇円、同号証の九の一〇万円、同号証の一〇の一二万円及び同号証の一三の二万六一二〇円

右は、いずれも請求書(甲第一一五号証の一、四、五、一三)又は売上伝票(同号証の九、一〇)を用いて原告宛に右金額を受領した旨が記載されているものである。しかし、発行者の氏名は全く記載されていない(甲第一一五号証の一、一三は作成年月日欄も空欄である。)から、原告の支出を的確に立証し得る証拠とは認め難い。

(2) 甲第一一五号証の二の三万八六三六円

右は、「中島」発行名義で売上伝票を領収書代わりに用いて原告宛に出された旨が記載されているものであるが、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(3) 甲第一一五号証の七の七万八八〇〇円及び同号証の一二の六万円

右は、「中島」発行名義の原告宛の領収書であるが、前掲乙第五五号証及び証人中島治雄の証言によれば、右は中島治雄が取引先の原告に頼まれて発行した架空の領収書であることが認められるので、採用できない。

(4) 甲第一一五号証の二二の一二万五〇〇〇円及び同号証の三七の一万六五〇〇円

右は、いずれも誠ベニヤ商会峰岸誠次郎発行名義のもの(前者が領収書、後者が納品書)であるが、前掲乙第五〇号証及び証人峰岸誠次郎の証言によれば、右書類は、峰岸誠次郎が取引先の原告に依頼されて作成した架空のものであると認められるので、採用できない。

(5) 甲第一一五号証の五七の一六万五六〇〇円

右は、赤谷木材発行名義の原告宛の領収書であるが、その作成日付が昭和四一年一二月三〇日であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(三)  石積、ブロック諸費関係のうち、甲第一〇九号証の三の三万一五〇〇円、同号証の五の一一万〇三〇〇円及び同号証の六の三万三五〇〇円

右は、山岸三郎発行名義の請求書(甲第一〇九号証の三、六)又は領収書(同号証の五)であるが、宛名が「上様」(同号証の三、六)又秋元(同号証の四)であり原告ではないので、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(四)  瓦葺工事費関係分

(1) 甲第一〇一号証の三の二万三八〇〇円、同号証の六の一〇万円及び同号証の七の五万〇四〇〇円

右は、いずれも山田屋根店又は山田発行名義の領収書であるが、甲第一〇一号証の三は作成日付が昭和四一年一一月二九日、同号証の七は同年一二月であり、昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。また、同号証の六は仮領収書であって正規の領収書ではないから、前記6(四)と同一の理由により採用できない。

(2) 甲第一〇一号証の五の二万五三七五円

右は、斉藤瓦店発行名義の原告宛の領収書であるが、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(五)  左官工事費関係分

(1) 甲第一〇八号証の五の四一万二三〇〇円及び同号証の六の一万八七〇〇円

右は、有限会社後藤左官工業所の発行名義の請求書であるが、宛名が原告ではなく(甲第一〇八号証の五は晃栄電気、同号証の六は材木座)、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第一〇八号証の九の三一万一〇二〇円

右は、白紙に原告宛で金額合計三一万一〇二〇円とだけメモ様に記載されたもので、作成者、作成年月日、金額の趣旨のいずれも不明である。したがって、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(六)  板金工事費関係のうち、甲第一〇四号証の五の五万三九七五円

右は、岩沢銅工店発行名義の原告宛の領収書であるが、作成日付が昭和四一年一二月二八日となっており、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(七)  畳工事費関係のうち、甲第一〇〇号証の三の一万七八五〇円

右は、畳業者の横溝政蔵発行名義の原告宛の領収書であるが、作成日付が昭和四一年一二月となっており、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(八)  ガラス工事費関係のうち、甲第一〇三号証の七の六万八八〇〇円

右は、南木硝子店発行名義の原告宛の領収書であるが、作成日付が昭和四一年一二月二九日となっており、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(九)  塗装工事費関係のうち、甲第一〇七号証の三の一万六三九〇円及び同号証の四の四万六七五〇円

右は、「草野塗装工業所草野武」発行名義の領収書であるが、甲第一〇七号証の三は宛名欄が空欄であり、同号証の四は作成年月日欄が空欄であり、いずれも原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(十)  鉄骨、シャッター工事費関係分

(1) 甲第一〇五号証の四の二万四〇〇〇円

右は、第一建鉄工業株式会社発行名義の原告宛の領収書であるが、発行年である四四年を四二年と訂正していることから極めて不自然なものであり、採用できない。

(2) 甲第一〇五号証の九の二万円

右は、百瀬工業所発行名義の原告宛の仮領収書であるので、前記6(四)と同一の理由により、採用できない。

(十一)  水道工事費関係分

(1) 甲第一〇六号証の一の一五万円

右は、山本幸一発行名義の原告宛の領収書であるが、作成日付が昭和四一年一二月二六日であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第一〇六号証の二の二二万七一三〇円及び同号証の一〇の七万三〇〇〇円

右は、有限会社港水道工業所発行名義の原告宛の領収書であるが、いずれも作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(十二)  電気工事費関係分

(1) 甲第一一一号証の二の二万四七九〇円、同号証の三の一万五七二〇円、同号証の八の七万四六八〇円及び同号証の九の五万三四九〇円

右は、いずれも発行者欄又はそれと思しき箇所に「斉藤」という三文判が押捺されているだけであり、宛名も原告ではなく(甲第一一一号証の二が「上大岡斉藤、同号証の三が北、同号証の八が斉藤理容室、同号証の九が秋広)、作成年月日欄は空欄である。したがって、このような領収書をもって、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第一一一号証の七の五万四八四〇円

右は、「斉藤電気」発行名義の領収書であるが、宛名が原告でなく岡島とされており、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(3) 甲第一一一号証の一〇の一万六六〇〇円及び同号証の一一の二万二七五〇円

右は、斉藤電気商会発行名義の領収書であるが、宛名が原告でないのみならず(甲第一一一号証の一〇は村木、同号証の一一は斉藤文)、作成日付がいずれも昭和四三年三月四日であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(4) 甲第一一一号証の一二の三万一二〇〇円及び同号証の一三の九万七五〇〇円

右は、斉藤電気商会発行名義の請求書であるが、宛名が原告でないのみならず(甲第一一一号証の一二が木村、同号証の一三が瀬沼)、同号証の一二の作成日付は昭和四一年一二月であり、いずれにしても、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(十三)  タイル工事費関係のうち、甲第一一〇号証の三の三万四二〇〇円

右は、林工業所発行名義の原告宛の領収書であるが、その発行年月日の記載がなく、昭和四二年分の発行に係るものかどうか不明であるから、採用できない。

(十四)  鋼材費関係分

(1) 甲第一一四号証の一の八万八〇〇〇円

右は、株式会社菅沢商店発行名義の原告宛の領収書であるが、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第一一四号証の二の一万二〇〇〇円

右は、株式会社小川ウエルディング商会発行名義の領収書であるが、宛名が原告でなく貫洞となっており、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(3) 甲第一一四号証の三の六万〇一九一円

右は、丸金商店発行名義の原告宛の請求書であるが、作成年月日欄が空欄であり、採用できない。

(十五)  登記手続費用関係のうち、甲第一一八号証の一の一万六四四〇円

右は、司法書士松本芳太郎発行の領収書であるが、宛名が原告でなく、勝田栄三となっており、原告の支出を示す証拠とは認め難い。

(十六)  諸経費中の「その他」関係分

(1) 甲第九九号証の一四の二万四三六〇円

右は、「(有)千洋自動車」発行名義の原告宛の領収書であるが、作成年月日欄が空欄であり、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認め難い。

(2) 甲第九九号証の三八の一万円

右は、名刺の裏様の紙片に仮領収書と記載されたものであるが、前記6(四)と同様の理由により証拠価値の乏しいものとして採用できない。

(3) 甲第九九号証の六七の一万六五〇〇円

右は、大野屋菓子店の原告宛の領収書である。ところで、右領収書によると、大野屋菓子店の住所は「横浜市鶴見区…」、電話番号は「(五〇一)…」とゴム印で押捺されているところ、証人藤井正信の証言により成立の認められる乙第五六号証及び成立に争いのない乙第五七号証の一、二によれば、横浜市内の電話局番が二桁となったのが昭和四二年八月二〇日と認められる。したがって、右領収書の発行日付である昭和四二年五月現在三桁から三桁局番は存在しないから、右書証は、後に真実の取引に基づかずに作成されたものであるといわざるを得ず、採用できない。

(4) 甲第九九号証の八四の二万八〇〇〇円

右は、株式会社新製品普及会発行名義の原告に対する寝具一式代金の領収書である。

この点について、原告は、従業員用の布団を買ったものと供述する(昭和五三年八月二八日の原告本人尋問調書五八丁)。ところが、甲第九九号証の七四の領収書でも明らかのとおり、原告は別途布団を購入していることが窺われるばかりか、同号証の八四の領収書の金額二万八〇〇〇円並びに発行人の「新製品普及会」という名称から考えると、従業員用のものというよりむしろ原告が病弱(前記二1(四)の認定事実参照)であることから家事用に購入したものと解するのが妥当であり、そうだとすれば同号証の八四の書証を必要経費とすることは勿論相当でないのである。よって、右領収書は採用できない。

(5) 甲第九九号証の九四の一万円

右は、有限会社昇栄商事発行名義の飲食代金の領収書であるが、作成年月日欄は空欄であり、宛名は「上様」となっている。したがって、右領収書は、原告の昭和四二年分の支出を示す証拠とは認められないばかりか、仮に原告が支出したとしても、誰をどのような目的で接待したための費用に係るものであるか明らかでなく、右書証はいずれにしても原告の必要経費の存在を示すものとは認められない。

8  売上原価及び一般経費についての推計額採用

(一)  昭和四〇年分

前記5のとおり、昭和四〇年分の売上原価及び一般経費についての原告提出の証拠のうち、少なくとも三二二万九三五一円分は採用できない。そして、前記認定のとおり原告があえて架空の書類を作成するなどしていることなどに照らし、その余の原告提出証拠がすべて真実と合致するか否かについては少なからぬ疑義はあるが、この点はさておき、これらの証拠が採用し得ると仮定しても、売上原価及び一般経費の額は、原告主張の一七二三万八六三八円から右不採用額三二二万九三五一円を控除した一四〇〇万九二八七円となり、本件推計による額である一五八二万八七九三円(前記3(二))又は一六一七万〇五五一円(前記3(三))を超えないことになる。

そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件推計による売上原価及び一般経費の額の認定をもって、違法があるということができない。したがって、本件推計額によることになる。

(二)  昭和四一年分

次に昭和四一年分の売上原価及び一般経費についてみると、前記6のとおり少なくとも二一〇万〇六一〇円分の原告提出証拠は採用できない。そうすると、その余の原告提出証拠がすべて採用し得ると仮定しても、売上原価及び一般経費の額は、原告主張の一三八〇万六四九九円から右不採用額二一〇万〇六一〇円を控除した一一七〇万五八八九円となり、本件推計による額の一三一四万六九五六円(前記3(二)、(三))を超えない。したがって、右昭和四〇年分の場合と同様の理由により、右推計額によるのが相当である。

(三)  昭和四二年分

さらに、昭和四二年分の売上原価及び一般経費についてみると、前記7のとおり少なくとも三四一万三二九七円分の原告提出証拠が採用できない。そうすると、その余の原告提出証拠がすべて採用し得ると仮定しても、売上原価及び一般経費の額は、原告主張の一六五二万八六六二円から右不採用額三四一万三二九七円を控除した一三一一万五三六五円となり、本件推計による額の一五一〇万七四一二円(前記3(二))又は一五三五万二一五七円(前記3(三))を超えない。したがって、昭和四〇年分の場合と同様の理由により右推計額によるものが相当である。

9  事業所得に係る算出所得金額

(一)  以上によれば、前記2の収入金額から前記3(二)の原価及び一般経費を控除して算出所得金額を求めるべきことになるが、そうすると、次のとおりになる。

昭和四〇年分 二一五万八四七二円

昭和四一年分 一七四万二〇〇九円

昭和四二年分 二〇〇万七五九〇円

(右金額中、昭和四〇年分及び昭和四一年分は「被告の主張」欄2(三)の金額と同一であるが、昭和四二年分の被告主張額は一九九万六九九八円である。)

(二)  ちなみに、前記2の収入金額から前記3(三)の額を売上原価及び一般経費として控除すると、次のようになる。

昭和四〇年分 一八一万六七一四円

昭和四一年分 一七四万二〇〇九円

昭和四二年分 一七六万二八四五円

四  特別経費

1  原告の事業所得に係る特別経費として「被告の主張」欄2(四)のとおり、支払利息及び減価償却費が存在することは当事者間に争いがない。

2  原告は右(一)以外に計上もれの特別経費が存在する旨主張するが、少なくとも、次の貸倒金なるものは計上漏れの特別経費とは認められない。

(一)  昭和四〇年分の三倉博に対する貸倒金

原告は、三倉博邸の工事代金に関し、一万八二三五円の貸倒金があると主張するが、そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また、仮に、未収金があったとしても、直ちにそれが回収不能の貸倒金になるわけではないから、原告の右主張は採用できない。

(二)  昭和四一年分の赤堀建設に対する貸倒金

原告は、中西邸の工事につき赤堀建設の下請として工事を施行したが、請負工事代金三二万円が赤堀建設から回収できない旨を主張する。しかし、原告自身、そのうち二〇万円は支払われた旨の矛盾した供述をしている(昭和五三年一一月八日の原告本人尋問調書一二丁)ことに加え、証人赤堀千代彦の証言により成立の認められる乙第五四号証、原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六一号証及び証人赤堀千代彦の証言によれば、赤堀建設は、右の三二万円も含め中西邸に係る建設工事代金として同建設が下請の原告に負担する代金を原告に支払っていることが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

したがって、昭和四一年分として赤堀建設に三二万円の貸倒金がある旨の原告の主張は認められない。

(三)  昭和四二年分の第一建鉄株式会社に対する貸倒金

原告は、工藤仙一郎邸の建築工事を請け負った第一建鉄株式会社が下請けの原告に対して下請工事代金のうち三〇万八四二五円を支払わないので、貸倒金として特別経費に算入されるべきである旨主張する。しかし、証人小西公男(第二回)の証言により真正に成立したと認められる乙第六二号証及び右証言によれば、第一建鉄株式会社は、原告に対して有する工事先十全商会に係るシャッター取付等工事代金債権をもって右三〇万八四二五円の原告に対する債務を相殺したことが認められる。

したがって、原告は第一建鉄株式会社に対して貸倒金を有しないのであり、原告の右主張は採用できない。

五  原告の総所得金額

1  昭和四〇年分

以上によれば、三9(一)の事業所得に係る算出所得金額二一五万八四七二円から、争いのない特別経費である「被告の主張」欄2(四)の支払利息五〇八二円及び減価償却費二万一四五七円(前記四1参照)を控除し、昭和四〇年分の事業所得金額は二一三万一九三三円となる。そして、他の種類の所得がないことは当事者間に争いがないので、総所得金額は右と同額となる。

なお、仮に事業所得に係る算出所得金額に前記三9(二)の一八一万六七一四円を用いると、事業所得金額(総所得金額も同じ)は一七九万〇一七五円となる。

2  昭和四一年分

同様にすると、仮に支払利息計上漏れ六万八五八二円及び中西洋之祐に対する貸倒金一七万三五八〇円があったとしても、前記三9(一)の事業所得に係る算出所得金額一七四万二〇〇九円から、争いのない特別経費である「被告の主張」欄2(四)の支払利息四万六五五二円及び減価償却費二万六五六八円(前記四1参照)並びに右貸倒金等二四万二一六二円を控除し、昭和四一年分の事業所得金額は少なくとも一四二万六七二七円となり、これが総所得金額にもなる点は昭和四〇年分と同様である。

なお、昭和四一年分については、事業所得に係る算出所得金額に前記三9(二)の金額を用いても右と同じである。

3  昭和四二年分

同様にすると、前記三9(一)の事業所得に係る算出所得金額二〇〇万七五九〇円から、争いのない特別経費の額である「被告の主張」欄2(四)の支払利息一八四八円及び減価償却費二万六五六八円(前記四1参照)を控除し、昭和四二年分の事業所得金額は一九七万九一七四円となる。そして、不動産所得が一四万二七四〇円あることは当事者間に争いがないので、総所得金額は二一二万一九一四円となる。

なお、昭和四二年分について、仮に事業所得に係る算出所得金額に前記三9(二)の一七六万二八四五円を用いると、事業所得金額は一七三万四四二九円、総所得金額は一八七万七一六九円となる。

六  本件各処分の適否

本件各更正における総所得金額は、請求原因1のとおり昭和四〇年分が一七七万二〇〇〇円、同四一年分が一〇五万七〇〇〇円、同四二年分が一八五万五七四〇円であることは当事者間に争いがなく、これらはいずれも右五説示の総所得金額の範囲内である。

したがって、本件各更正及び本件各決定に、不当な推計に基づき所得を過大に認定した旨の原告主張の違法はない。

七  結び

以上のとおりであり、その余の点について判断するまでもなく原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡光民雄 裁判長裁判官古館清吾及び裁判官橋本昇二は転補につき署名捺印できない。裁判官 岡光民雄)

別表一 (同業者の経費率―被告主張)

〈省略〉

但し、小数点等二位未満切上

別表 (昭和四〇年分板金工事費―原告主張)

〈省略〉

別表三(昭和四〇年分大工工賃―原告主張)

〈省略〉

別表四 (昭和四一年分左官工事費―原告主張)

〈省略〉

別表五 (昭和四一年分板金工事費―原告主張)

〈省略〉

別表六 (昭和四一年分大工工賃―原告主張)

〈省略〉

別表七 (昭和四一年分鉄工配管工工賃―原告主張)

〈省略〉

別表八 (昭和四一年分解体工事人夫賃―原告主張)

〈省略〉

別表 (昭和四二年分基礎工事費―原告主張)

〈省略〉

別表一〇 (昭和四二年分大工工賃―原告主張)

〈省略〉

別表一一 (昭和四二年分鉄工配管工工賃―原告主張)

〈省略〉

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